【解説】たんぱく加水分解物のすべて

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 食品の原材料表示にたんぱく加水分解物と記載されていますが、一体どういうものなのか、加水分解とはどのようなことか、 安全性はといった疑問や不安は、ありませんか。

 たんぱく加水分解物は、小麦や脱脂大豆、豚や魚などの原材料を塩酸で加水分解した食品の1種です。製造工程中に塩酸は、苛性ソーダによる中和を経て、食塩となり、除去されます。

 たんぱく加水分解物を加工食品に用いることで、味の幅が広がることから、実際にさまざまな食品メーカーが、多くの製品に採用されています。

たんぱく加水分解物に対する疑問や不安

 「食品の原材料表示に、たんぱく加水分解物と記載されていますが、一体どういうものですしょうか。」、「加水分解とはどのようなことですか。」、「よくわからない原材料なので、 安全性が心配です。」といった疑問や不安は、ありませんか。

たんぱく加水分解物の原材料と製法と安全性

 たんぱく加水分解物は、小麦や脱脂大豆、トウモロコシ、ジャガイモ、甜菜、豚やカツオ、マグロ、イワシの皮や骨などの原材料を塩酸で加水分解した食品の1種です。小麦や大豆など植物性たんぱく質を塩酸で分解したものは、HVP(hydrolyzed vegetable protein)、豚や魚など動物性たんぱく質を塩酸で分解したものは、HAP(hydrolyzed animal protein)と呼ばれます。食品業界内ではアミノ酸液やアミノ酸パウダーとも呼ばれます。植物性たんぱく質由来のたんぱく加水分解物は、口に入れたときに最初に感じる先味が強くなり、シャープな味に仕上げることができます。動物性たんぱく質由来のたんぱく加水分解物は、甘味があり食品にまろやかさを持たせる効果があります。

 たんぱく加水分解物は、原材料のたんぱく質を塩酸で加水分解することで製造されます。10,000~20,000LのFRP製タンクに原材料と塩酸を加え、蒸気を吹き込むなどで100℃前後まで加熱し、pH1以下で数日間、加水分解を行います。その後中和タンクに移送し、苛性ソーダでpHを戻します。このときに活性炭なども加え脱臭脱色も同時に行います。それからろ過設備やクロロプロパノール類の除去装置を通し、鉄分や色素を吸着樹脂にて取り除き、真空設備で脱臭します。2~4週間程タンクで静置させ、オリを沈殿除去し、濃縮や脱塩を経て、製品となります。

 製造工程中に塩酸を使用するため、心配になるかも知れませんが、胃酸でたんぱく質が消化されるのと同様です。分解が終わった後に塩酸は、苛性ソーダで中和され、食塩となります。

 また、原材料中に含まれる脂肪に由来するグリセリンと塩酸によって、変異原性の恐れがあるといわれたクロロプロパノール (3-MCPD)と呼ばれる物質が、製造工程中に微量に生成されますが、上述した通り、こちらは専用の装置で除去されています。もちろん、製造元も定期的に残留の有無を確認しています。なお、クロロプロパノール については、FAO/WHO合同食品添加物専門委員会などが評価を行い、変異原性は認められなかったと結論づけました。

たんぱく加水分解物の呈味

 たんぱく加水分解物は、たんぱく質をほぼ単体のアミノ酸にまで高度に分解されており、うま味をはじめ、口に入れたときに強いパンチの効いた呈味が得られ、非常に安価で流通しています。たんぱく加水分解物は、原材料由来のさまざまなアミノ酸から構成され、しょう油や漬物をはじめ、即席めんやスナック菓子などの加工食品全般の調味目的で使用されます。アミノ酸は、食品にうま味を付与する重要な要素です。昆布からだしを取ったり、豚骨や鶏ガラからスープを取ったりするのは、主にこれらの原材料が持つアミノ酸などの成分を取り出しているわけです。加工食品の場合、製造工程中や保存時にどうしても失われてしまう味を補い、また均一な味に仕上げる必要があるため、原材料の味だけでなく、たんぱく加水分解物が使用されることになります。たんぱく加水分解物は、長期保存が可能で、用途が幅広いこともあり、日本だけでなく、欧米やアジアでも使用されています。

 一般的には、たんぱく加水分解物を使うと、使用量にもよりますが呈味力が高いことから、味が強く感じられるようになり、メリハリのある味に仕上がるため、同じ加工食品でも、たん白加水分解物を使った場合と使わなかった場合では、仕上がりの味に大きな違いがあります。

 分類上は食品扱いとなり、食品添加物ではありません。たんぱく加水分解物は、加水分解という比較的簡易な加工工程を経て製造されることから、食品に分類されています。一方、アミノ酸の単体であるグルタミン酸ナトリウムやアスパラギン酸ナトリウムなどは、食品添加物です。

 たんぱく加水分解物の製法は、100年以上も前にヨーロッパで確立されたといわれています。日本でも1930年代から作られるようになり、主にしょう油業界において改良が行われ、しょう油製造の簡素化と品質向上に貢献してきました。特に九州のしょう油は、うま味と甘味が特徴となりますが、このうま味の決め手は、たんぱく加水分解物です。この味は、たんぱく加水分解物なしでは実現できません。ちなみに甘味は、甘草やステビアなどによるものです。

食品メーカーでの多くの使用実績

 20年前後食品メーカーの製品開発職に在籍し、仕事柄あらゆるたんぱく加水分解物の比較検討を行いました。たんぱく加水分解物は、うま味をはじめ、口に入れたときに強いパンチの効いた呈味が得られ、非常に安価で流通しています。たんぱく加水分解物は、原材料由来のさまざまなアミノ酸から構成され、即席めんやスナック菓子などの加工食品の製品開発に使用します。もちろん、工場監査やたんぱく加水分解物の製品規格書を確認し、品質に問題がないことを確認しています。
 たんぱく加水分解物を加工食品の製品開発に用いることで、味の幅が広がることは確かです。実際にさまざまな食品メーカーが、多くの食品に採用しています。

まとめ

 たんぱく加水分解物は、小麦や脱脂大豆、トウモロコシ、ジャガイモ、甜菜、豚やカツオ、マグロ、イワシの皮や骨などの原材料を塩酸で加水分解した食品の1種です。植物性たんぱく質由来のたんぱく加水分解物は、口に入れたときに最初に感じる先味が強くなり、シャープな味に仕上げることができます。動物性たんぱく質由来のたんぱく加水分解物は、甘味があり食品にまろやかさを持たせる効果があります。
 たんぱく加水分解物は、原材料のたんぱく質を塩酸で加水分解することで製造されます。
 原材料中に含まれる脂肪に由来するグリセリンと塩酸によって、変異原性の恐れがあるといわれたクロロプロパノール (3-MCPD)と呼ばれる物質が、製造工程中に微量に生成されますが、専用の装置で除去されています。クロロプロパノール については、FAO/WHO合同食品添加物専門委員会などが評価を行い、変異原性は認められなかったと結論づけています。
 たんぱく加水分解物を加工食品の製品開発に用いることで、味の幅が広がることから、実際にさまざまな食品メーカーが、多くの製品に採用しています。

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