昆虫食とは
加工食品の原材料を求めて、中国に出張すると現地の方々から夜は必ず近所の名店に招待され、会食となります。名店のドアを開け、中に入ると大抵さまざまな食材が陳列され、目を楽しませてくれます。そこには普段見慣れない中国の野菜やワニの肉も無造作に置かれ、さらに見渡すとサソリや芋虫といった昆虫が並んでいます。これらの食材を選び、お店に料理方法を伝え、しばらくすると円卓に見事な料理が届きます。ここで一口サイズのサソリの素揚げのようなものを食べました。ピリッとして、一瞬毒なのかと頭をよぎりましたが、何事もなく、食感は揚げたてのエビの尻尾をかみ砕いている感じです。エビなどの甲殻類の殻やカブトムシのような節足動物の外骨格は、キチンやキトサンという同じ成分で構成されているからかもしれません。正直なところ美味しいとは言えず、現地の方々から感想を聞かれても、笑顔でごまかしていました。さらに勧められたらどうしようという心境です。
また、昆虫と間違えられやすい陸に棲む巻貝のエスカルゴであれば、何かの機会にフレンチレストランなどで、ニンニクやパセリの香りとともに美味しく頂いた記憶があります。
さて、今後食料問題が深刻化した場合の食材として注目されているのが、昆虫食です。昆虫食といえば、日本でも長野県などの内陸部では、イナゴの佃煮などを食べる文化が根付いています。まだまだ昆虫を食べたいという会話をする機会はなく、実際に目の前にすると口に運ぶのをためらいます。
しかしながら、将来的には世界的な人口の増加により、いやおうなしに食べざるを得ない状況がやってくるかもしれません。そのような状況はできれば避けたいですが、予備知識として、昆虫食について考えてみてもよいかもしれません。
昆虫食のメリットとデメリット
既にインターネットで、昆虫食が手軽に購入できます。グロテスクな画像とともにさまざまな製品が紹介されています。購入ボタンをクリックすることにためらいを感じてしまうことも少なくありません。ですが、今後主要なたんぱく源としての可能性を秘めている食材です。昆虫食のメリットとデメリットについて考察します。
昆虫食のメリット
1 優れた栄養価
昆虫類はたんぱく質の割合が高く、脂質は青魚のようにリノール酸などの不飽和脂肪酸を多く含み、ビタミンやミネラルも高含有で、バランスの良い食品とされています。
2 高い生産効率
昆虫は成長が早く、必要な餌は家畜と比較しておおよそ25%で済む生産効率の高い経済的な食材です。
3 馴染みがないことによる好奇心と食材としての可能性
コオロギの串焼きやタガメのお吸い物、セミの煮物などアイデア次第、加工方法次第で、様々な組み合わせや味を創造することができるかもしれません。
昆虫食のデメリット
1 視覚による衝撃
まずは昆虫の形そのままの状態で袋詰めされています。花壇や草むらから出てくる雰囲気を保ちながら何匹もまとめて入っています。食べ物としての概念がないので、恐怖を覚えます。
2 毒の影響
サソリなど毒をもつ昆虫も市販されており、当然毒が気になります。加熱することで毒の効果がなくなっているかもしれませんが、口に入れる際は考えてしまいます。
3 不明確な組成
食品として提供されているので、問題ないと思いますが、昆虫の食品としての一般的規格や生菌数、昆虫の餌となる植物からの残留農薬の管理が気になります。また、アレルゲンとなる可能性もあります。
4 調理方法
まだクックパッドにもタガメやサソリの調理方法は載っていないはずです。スーパーでも昆虫のコーナーは見かけません。また、すでに加熱されているのか、あるいはそのまま食べるのか謎は深まるばかりです。
昆虫食の事例
世界中を見渡すとさまざまな国で昆虫が食されています。タガメ、カメムシ、セミ、ゲンゴロウ、カミキリムシ、コガネムシ、クワガタムシ、ゾウムシ、ガ、アリ、イナゴ、バッタ、コオロギ、ハエ、カ、トンボ、シロアリ、ゴキブリ、タランチュラ、サソリ、ムカデ、クモ、カタツムリはそれぞれ特定の地域に限り、すでに食材として広く認知されています。
まとめ
残念ながら昆虫を加工食品の原材料として扱う機会に恵まれず、昆虫に合う味付けを検討したこともありません。昆虫の製品サンプルを頂いたこともありません。ですが、今後の食糧問題の切り札と考えられていることは事実であり、新たな昆虫食のメニュー開発にかかわりたいところです。
一部のコアな方々には不満かもしれませんが、昆虫食の最大の欠点はそのままの形状を残していることではないでしょうか。粉砕機で粉々にし、麺や挽肉に練り込むことで、見た目の食べやすさは少なくとも解消できます。香辛料の効いたカレーに昆虫のペーストや粉末を加えれば、昆虫由来のたんぱく質と脂質により濃厚な味になるかもしれません。
食糧問題の解決のカギを握るかもしれない昆虫食の普及には、しばらく時間を要しそうです。